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楽天G(4755)をはじめとした大企業がライツ・オファリングを選択しない4つの理由について考察

株式会社DMM.com証券

先日、楽天Gが公募増資を実施しました。当社の公募増資は、市場慣行の観点から許容される希薄化で最大規模のものであったため、既存株主にとって影響が大きかったと言えます

既存株主の事を配慮するなら、ライツ・オファリングを選択すべきでは?という意見もあったかと想定されます

一方で、大型のライフ・オファリングは、発行会社・証券会社双方にとって実施しにくい事情があります。本日は、大企業がライツ・オファリングを選択しない4つの理由・背景について解説します。

まだまだ課題の多いライツ・オファリングですが、テスホールディングスのライツ・オファリングのような前向きな活用事例が増えていくことを個人的には期待しています

公募増資で暗黙のルールとして許容されている株数は発行済株式の34%(EPS希薄化率25%)=楽天Gの公募増資の規模

  • 楽天Gの公募増資は発行済株式の34%(EPS希薄化率25%)に及んだ
  • リーマンショック以降、暗黙の境界線として、発行済株式34%が一定の上限目安とされてきた
  • モバイル事業の先行投資負担で財務リスクが顕在化している中、既存株主に25%の希薄化を強いる形で財務改善を図ったことになる
    • 正に公募増資で取れるだけ資本調達しようという発想だったと推察される
  • 残念ながら公募増資以降も株価は冴えない展開が続く。市場が懐疑的に見ていると考えられる理由は以下2点
    • 今回の公募増資で資本が足りるのか?財務リスクは改善するのか?
    • モバイル事業の業績が本当に底打ちするのか?KDDIのローミングコストは業績の足枷にならないのか?安定した利益出せるのか?など
  • 仮に前者が理由だとすると、なぜ既存株主に配慮しつつ増資規模を増やせるライツ・オファリングを選択しなかったのか?という議論になる
  • 証券会社が行使をコミットするライツ・オファリングは、既存株主に配慮した増資手法と認知されており、欧州で普及している
  • 楽天Gの増資規模に鑑みると、ライツ・オファリングを選択すべきでは?と疑問に思う投資家も多いと推察する

日本版ライツ・オファリングは、企業にとって選択しにくい4つの理由

  • 私自身、上場企業に対して増資等をアドバイスしてきた結果、ライツ・オファリングは理想的な増資手法という結論に至ったものの、積極的に推奨はしなかった
  • また、ライツ・オファリングに関心を示す企業も存在したが、詳細を検討する過程で断念するケースが大半であった
  • その理由は、以下4点に集約される
    1. 個人投資家に認知された手法ではないため、突然ライツを割り当てると混乱は避けられないと発行会社は懸念する
      • 楽天Gの場合、株主数は32万人。馴染みのないライツを割り当てられると市場が混乱する恐れがある
      • 株主数が多いと、権利行使の事務リスクも考慮する必要がある(大量の行使請求への事務対応負担)
      • よって、ライツの権利行使事務に関して証券代行と事前に入念な打ち合わせが必要となる
        • 現状ライツ・オファリングの実績ある企業の株主数は1万人程度(テスホールディングスも1万人)
        • 筆者が把握している限り、30万人超の株主数を有する企業によるライツ・オファリングの実績は無い
    2. 1,000億円規模のライツ・オファリングを複数の証券会社と共同してコミットすることは、証券会社側にも難しい事情がある
      • 証券会社には、個別株保有に関するリスク管理上のルールが存在。取れるポジションと引受けの前提条件は各社各様である
      • 1,000億円のライツ・オファリングを1社でリスクを負うのは現実的ではないため、シンジケート団を組成してリスクシェアする必要がある(海外でも大型のライツ案件はシ団を組成するのが一般的)
      • ライツ・オファリングは、公募増資と異なり、引受判断は各社各様でコンセンサス形成に時間を要する
        • 公募増資は、事例も多く確立された手法。主幹事証券の引受審査がOKであれば、基本シ団各社は主幹事の方針に従うのが通例
        • ライツ・オファリングは、実例が少なく短期間で引受判断を行うことは困難であるため、直前にライツのシ団を招聘しても、証券会社が引き受けてくれるのか見極めが難しい
      • 増資にかかる情報はインサイダー情報であるため、多数の証券会社と公表前に議論することも難しい。従って、証券会社も発行会社に対して積極的に推奨・提案をしなくなる傾向がある
    3. ファイナンス期間(公表から払込日)が極めて長いため、発行会社・引受証券会社双方にとって使い勝手が悪い
      • 公募増資のファイナンス期間は3週間程度
      • 一方、ライツ・オファリングのファイナンス期間は2ヶ月強
      • 欧州で普及しているライツ・オファリングは3-4週間程度と短く決定的な差があるといえる
      • ファイナンス期間が長いため、欧州のライツ・オファリングに比べて、コミットする証券会社がとるリスクも高くなる。その分証券会社が要求するディスカウントも大きくなる
        • 欧州で実施されるライツ・オファリングのTERPディスカウントは30-40%
        • それに対して日本版ライツ・オファリングは40-60%程度(テスHDの事例では43.5%のディスカウント)
    4. そもそも、ライツ・オファリングのイメージは悪い(ライツ=潰れそうな会社が実施するイメージができてしまった)
      • ライツ・オファリングが制度化されてから、ほとんどの事例は、証券会社がコミットしないノン・コミット型ライツ・オファリングと言われているものである
      • ノンコミットメント型ライツ・オファリングは、財務的に追い詰められた企業や、上場維持のための時価総額が維持できなくなった企業が、最終手段として活用する事例が頻発した
        • 東証が規制をかけた結果、不適切な目的での事例は激減したが、ライツ実施企業は潰れそうな会社というイメージが企業経営陣に浸透してしまった

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