8/2に公表されたマネーフォワードのCBについて、以下の通り案件概要とCB発行の背景・狙いをまとめました
本CBは、期中(5年間)利率ゼロのため低コスト、満期時点で資本増強(株式に転換)か、希薄化抑制(株式と現金の組み合わせで決済)かを発行会社の裁量で選択できる仕組みとなっています
金利先高感が台頭する中、できるだけ低コストで長期性資金を確保できる本件のようなCBの起債事例が増えることが予想されます。今後CBが起債される都度、概要を紹介していきたいと思います
案件概要
- 発行額は120億円(5年債)
- 全額をSaaS✖️Fintech事業領域の成長投資に充当
- 転換価格は、7,814円(8/2終値5,898円から32.5%のプレミアム)
- CB発行に伴う潜在株式数は、約153万株(自己株除き発行済株式数の2.8%相当)
- 時価総額対比、発行規模は限定的であり、CB発行自体による株価へのインパクトは限定的と考えられる
- CBの付帯条項として転換制限条項と現金決済条項が付されている
- 転換制限条項とは、CBの満期直前までは株価が転換価格7,814円から更に30%上昇しない限り転換できない仕組み
- つまり、CBの期間中は極力転換させたくない意図がある
- 現金決済条項とは、CB満期直前に転換される株数のうち額面部分については現金で買い戻す(決済する)仕組み
- これにより、希薄化を極小化させることが可能
- 現金決済条項による希薄化抑制効果の解説は東急のユーロ円CBの記事を参照
- 発行する120億円全額についてCBリパッケージローンが提供される予定
- これによりCB投資家はCBに内包する株式転換権(オプション)分のみ投資が可能となる
- CBリパッケージ取引の仕組みはフェローテックの記事を参照
- CBに内包する債券部分は、国内の金融機関が取得する予定
なぜ公募増資ではなくCBなのか?
- 通常、当社のような積極投資フェーズにあり、フリーキャッシュフローが赤字の企業は、成長投資資金を調達する際に公募増資を選択する
- ただ、当社は2021年8月に公募増資(海外募集)を実施しており、その際の公募価格は6,586円
- 2020年1月、2018年12月にも公募増資(海外募集)を実施しており公募価格は其々4,577円、2,946円
- 公募増資を複数回実施ているが、株価は前回公募価格より高い水準で実施してきた実績がある
- 現在の株価は5,898円。この株価で公募増資をすると前回公募に参加した投資家から不評を買う
- CBの場合は、一定のプレミアムを付して転換価額を決定することができる(本件の転換価額は7,814円)
- 当社としては前回の公募価格より高い株価で資本増強を行うことを企図してCBを選択したと考えられる
なぜ全額クレジットサポートされたCBなのか?
- ユーロ円CBの場合、案件公表後、投資家宛に数時間マーケティングした上でCBの条件を決定する
- CB投資家としては、数時間で発行会社のクレジット評価が必要になる
- 当社は、FCFが赤字の新興企業、外部格付機関の格付けもない。従って、数時間で適正なクレジットスプレッドを評価するのは不可能
- そこで、会社をよく理解しているメインバンク(またはそれに準じる取引銀行)が暗躍する。銀行がCBを裏付けとしたアセットバックローン(リパッケージローンともいう)を120億円提供する
- これによりCB投資家はCBに内包する株式オプション部分のみを取得できる
- 120億円という金額は、取引銀行の与信枠も考慮して設定された金額と推察される
なぜ転換抑制型のCBなのか
- 当社は、2024年11月期でのEBITDA黒字化を目指している(2023年11月期上半期におけるEBITDAは▲13.2億円
- 2020年公募増資の際は2021年11月期にEBITDA黒字化を目指すとしていたが先送りした上で追加の公募増資を実施した経緯がある
- 本CBの満期は2028年8月と年限は5年の猶予がある
- これまで投資家に説明してきたEBITDA黒字化ストーリーと整合させる観点から、基本的に「本CBは将来のキャッシュフローで十分返済できるし、そのつもりです」というメッセージを打ち出したかったと推察される
過去のエクイティ・ファイナンスの主幹事編成
- 2018年 海外公募67億円 みずほ/SMBC日興
- 2020年 海外公募47億円 みずほ
- 2021年 海外公募315億円 みずほ/ゴールドマン/メリルリンチ
- 2023年 海外CB120億円 ゴールドマン/野村/みずほ/メリルリンチ/モルガン・スタンレー
- 2017年のIPO時の主幹事はSMBC日興/マネックスだった。年々主幹事争いが激化しているように見受けられる